実地調査とは、実際に法人に臨場して調査することであり、最初に代表者に面接して会社の概要を聴取します。会社の業務内容や会社の歴史、代表者の方の経歴、また売上の計上方法や仕入れ、外注の決済方法など細かく聴取します。調査官にとっては、一連の調査事務の流れの中でこの概況の聞き取りが一番大事で重要な手続きでしょう。概況をしっかりと聴き取って会社の状況を把握しておかないと、帳簿調査の際に疑問点があってもいまさら社長に聞けないことになります。納税者側としては、作為的な説明はあとで矛盾が生じますし、質問されたことに対して誠意を持ってありのままを説明するのが大切であり、誤解を招かないように丁寧に説明しましょう。調査官の質問検査は尋問ではないので、受け答えの際の納税者の表情から何かをつかみ取るようなことは通常はありませんが、社長自身に売上を除外しているなど後ろめたいことがあるとどうしても顔に出てしまい、落ち着かなくなります。ベテランの調査官ともなると社長の挙動から何かを感じ取り、それとなく探りをいれて尻尾をつかまれるので、普段から適正申告を心がけましょう。これが税務調査の正しい受け方、上手な受け方です。こうして会社の概況聴き取りが終わると、調査官は帳簿調査に入ります。
帳簿調査とは、会社の元帳の各勘定科目の金額、内容を請求書、領収書をもとに調査することです。一番新しい決算期から見はじめ、以前は3期分遡及して見ていましたが現在は5期分遡及します。(平成16年改正税法の附則)
附則(平成十六年三月三一日法律第一四号)抄
第一条この法律は、平成十六年四月一日から施行する。
(国税通則法の一部改正に伴う経過措置)
第十七条……「新国税通則法」……第七十条第一項の規
定は、施行日以後に同項第一号に定める期限又は日が到来
する法人税について適用し、……。
売上計上が適正かどうかの調査は、売上の請求書の控えと売上帳の突合(とつごう)、領収証の控えと入金額との突合によって行なわれます。不突合があったときにはいわゆる売上除外ということが考えられます。仕入れ、外注費についても同じように取引先から来た請求書と仕入帳、買掛金台帳との突合をします。
帳簿調査で問題点が見つかった場合は(売上が計上されていない場合など)、相手先の会社に反面調査を実施して事実関係の確認をします。本当に漏れている場合は決済方法を確認し、個人口座や簿外預金への振込み、小切手であれば簿外口座での取り立てなどの把握に努めることとなります。具体的には、まず取引の相手先の法人に臨場して支払い方法が振込払いなのか、小切手、手形払いなのかを確認します。振込みの場合は振込先の銀行にさらに臨場してその口座の入金内容を調べる銀行調査をおこない、徹底的に解明することとなります(口座の名義人が誰なのか、社長の個人名義の口座なのか、法人名義の口座であっても法人の帳簿に計上されていない簿外口座なのかなど)。さらに、その口座からの出金についても銀行の出金伝票を調べ、振込出金であればその銀行に出向いて調査します。このようにして不正計算の全貌が明らかにされていきます。もし反面調査を受ける立場になったら、当局の調査官に対して協力するということが最も大事なことです。反面調査を拒否するなど非協力的な態度を取ると、相手の不正計算に加担したと思われて自分が調査を受けることとなります。
調査で何らかの問題点があった場合、調査官は修正申告を提出するように促します。このことを「修正申告を慫慂(しょうよう)する」と言います(慫慂とは、新明解国語辞典によれば「そうする方が君のためだと言って、勧めること」です)。税務署から指摘された問題点に納得することができずに修正申告の提出を拒否した場合は、税務署としては更正という行政処分をします。これに対して納得がいかない納税者側は、まず調査を実施した当該課税庁に対して異議申し立ての手続きを行い、さらにそこでの決定に納得がいかない場合は国税不服審判所に不服申し立てをします。それでも不満がある場合は裁判に訴えますが、そうならないように税務調査を終わらせることが大事です。しかし、どうしても間題の案件について考え方の一致を見られず、国税不服審判所や裁判所の判断を仰ぐため不服申し立てをする場合があります。なかには調査官の態度が気に入らず、納得いく説明がないため修正申告を出したくないなど、更正してくれと税務署長に異議申し立てをする場合もあるそうです。修正申告書の提出は最終期だけの修正ですむこともありますし、過去の事業年度に遡ることもあります(通常の場合は最大で5期、さらに不正計算があった場合は7期遡る)。