企業グループ内投務提供(IGS)の対価について説明してください

M社は電子部品の製造会社、香港に販売子会社を有する同族法人です。香港の販売子会社は設立後数年であり、まだ軌道に乗っているとはいいがたく、親会社がさまざまな面でバックアップしています。よって、本社から香港子会社に課長を財務部長として出向させているのですがここが問題点です。財務部長には香港の子会社が現地水準の給与を支払っていますが、香港の給与水準は日本と比べて低いので、財務部長には以前日本で支給していた給与水準との較差部分の金額を日本国内で支払っています(較差補塡金)。給与については、出向先で負担するべき給与を日本本社が負担している事実はなく、また、日本国内で支給している較差補塡金について問題はないようです。部長が子会社で仕事をしている対価としての給与は、会社が自社で負担すべき給与金額と認識して負担しており、日本本社が負担しているわけではないので、子会社に対する寄付金などの問題は生じません。さらに、香港に出張する社員も多いのですが、かかった旅費交通費のすべてを日本本社が負担しています。較差補塡金については以下を参照してください。
(出向者に対する給与の較差補てん)
9-2-47 出向元法人が出向先法人との給与条件の較差を補てんするため出向者に対して支給した給与の額(出向先法人を経て支給した金額を含む。)は、当該出向元法人の損金の額に算入する。(昭55年直法2—8 「三十二」、平10年課法2—7 「十」、平19年課法2—3 「二十二」により改正)
(注)出向元法人が出向者に対して支給する次の金額は、いずれも給与条件の較差を補てんするために支給したものとする。
1 出向先法人が経営不振等で出向者に賞与を支給することができないため出向元法人が当該出向者に対して支給する賞与の額
2 出向先法人が海外にあるため出向元法人が支給するいわゆる留守宅手当の額
しかし、ここには2つの問題点があるのではないでしょうか。(1) まず、移転価格税制の観点から(移転価格税制とは、国外関連者との取引について、その価格が第三者間の取引価格(独立企業間価格)と異なることにより、我が国の課税所得が減少している場合に、その取引が独立企業間価格で行われたとみなして所得を計算し課税する制度で、昭和61年度税制改正により導入。企業が租税回避の意図をもって恣意的な価格設定を行ったか否かは問わない)、出向している財務部長が経営指導しているにもかかわらず、日本本社が子会社から経営指導料を受け取っていないということ。 (2) 次に、本社から香港に出張する社員の旅費交通費、宿泊費等すべての費用を日本本社が全額負担している点も問題です。(1)まず、日本本社が香港子会社から経営指導料を受け取っていないということについてですが、香港子会社は出向者を通じて親会社から経営・財務・業務・事務管理上の役務の提供を受けていますが、親会社にこの対価を支払っていません。もし親会社以外の第三者から、同じような経営指導を受ければ必ず対価を支払います。したがって、移転価格税制の観点から、親会社にも支払うべきであるでしょう。また、海外の子会社が日本の親会社から、経営・財務・業務・事務管理上の役務の提供を受けている場合で、もし親会社からの役務の提供がなければ、他の非関連者に対価を支払って同様の役務の提供を受けなければならない場合は有償性のある取引に該当するので、親会社は子会社から相応の対価=経営指導料を得なければなりません。課長は香港子会社に財務部長として出向し、総務・経理・財務等、現地採用社員を指導する立場で仕事をしており、彼がいなければ香港子会社は誰かほかの第三者を頼んで対価を支払い、経営指導業務を代行させることになるわけです。これは有償性ある取引です。
ただし、香港子会社は設立間もないことから子会社単独では業務が進まず、販売支援や資金繰りのみならず人事管理等も含めて、親会社からの出向者の指導に依存せざるを得ません。移転価格税制は、日本本社と香港子会社との間で物品販売等の取引をする場合で、子会社との売買価格が他の第三者に対する売買価格と比べて異常に高かったり、安かったりした場合に問題にはなりますが、部長は香港子会社で当たり前の仕事をしているだけです。このように現実にモノの動きが見える物品売買のときはその価格の高い安いや、その結果として所得の移転が行われたかどうかなどについては非常に分かりやすいです。しかし目には見えない役務提供の場合も同じことです。他の第三者から経営指導を受ければその第三者に経営指導料を支払うことになるはずです。それが親会社であっても同様です。
今回のケースは、本社社員が香港に出張する際本社のための仕事で出張するのか、子会社のための仕事を本社社員がするために出張するのかによって、本社と香港子会社とがそれぞれ費用を負担するべきかについて調べたところ、本社用務ばかりではなく子会社用務も実施していることが判明しました。したがって、出張旅費等は本社が全額負担するべきではなく、子会社も負担するべきということになりました。出張者が実施した用務の内容を解明し、その実施割合をもとに香港子会社に対し負担を求める出張旅費等の額を算出し、実際に香港子会社に負担を求めることなく国外関連者に対する寄付金として修正申告をすることとなりました。
大事なことは、中小の同族会社も移転価格税制を理解すること、そして、本社と子会社との間の費用負担を明確にすることです。海外子会社との費用の負担関係では、本社の立場で本社の仕事をするのか子会社の利益のための仕事をしにいくのかを明らかにし、負担割合を明確にする必要があります。本社が出張旅費等を全額負担するのか、子会社が負担すべき金額はないかを検討しなければなりません。余談ですが、このような海外取引法人の事案は国際税務専門官がおこないます。国際官というのは、海外企業と取引をしている法人の調査を実施するときにもっぱらその海外取引の調査担当する職員のことであり、通常は国際官と国際官付上席の2名で編成されています(一緒に行動する場合もあれば、別々の事案にそれぞれ従事することも)。すべての税務署に配置されているわけではなく、比較的規模の大きい税務署に配置されていて、近隣の税務署、数署に併任されています。たまにですが、調査法人の海外100%子会社に出張することもあります。移転価格に関する事務運営指針については以下を参照してください。
移転価格事務運営要領の制定について(事務運営指針)
(企業グループ内における役務の提供の取扱い)
2-9
(1)法人が国外関連者に対し、次に掲げるような経費・財務・業務’事務管理上の活動を行う場合において、当該活動が役務の提供に該当するかどうかは、当該活動が当該国外関連者にとつて経済的又は商業的価値を有するものかどうかにより判断する。具体的には、当該国外関連者と同様の状況にある非関連者が他の非関連者からこれと同じ活動を受けた場合に対価を支払うかどうか、又は当該法人が当該活動を行わなかったとした場合に国外関連者自らがこれと同じ活動を行う必要があると認められるかどうかにより判断する。
 イ 企画又は調整
ロ 予算の作成又は管理
ハ 会計、税務又は法務
ニ 債権の管理又は回収
ホ 情報通信システムの運用、保守又は管理
ヘ キャッシュフロー又は支払能力の管理
ト 資金の運用又は調達
チ 利子率又は外国為替レートに係るリスク管理
リ 製造、購買、物流又はマーケティングに係る支援
ヌ 従業員の雇用、配置又は教育
ル 従業員の給与、保険等に関する事務
ヲ 広告宣伝(リに掲げるマーケティングに係る支援を除く。)
(2)法人が、国外関連者の要請に応じて随時役務の提供を行い得るよう人員や設備等を利用可能な状態に定常的に維持している場合には、かかる状態を維持していること自体が役務の提供に該当することに留意する。
(3)法人が国外関連者に対し行う(1)の活動が、役務の提供に該当するかどうかを検討するに当たり、次に掲げる活動は国外関連者にとつて経済的又は商業的価値を有するものではないことに留意する。
イ 法人が国外関連者に対し、非関連者が当該国外関連者に行う役務の提供又は当該国外関連者が自らのために行う(1)の活動と重複する活動を行う場合における当該重複する活動(ただし、その重複が一時的であると認められる場合、又は当該重複する活動が事業判断の誤りに係るリスクを減少させるために手続上重複して行われるチェック等であると認められる場合を除く。)
ロ 国外関連者に対し株主としての地位を有する法人が、専ら自らのために行う株主としての法令上の権利の行使又は義務の履行に係る活動(以下「株主活動」という。)で、例えば次に掲げるもの
(イ)親会社が実施する株主総会の開催や株式の発行など、親会社が遵守すべき法令に基づいて行う活動
(ロ)親会社が金融商品取引法に基づく有価証券報告書等を作成するための活動
(注)親会社が子会社等に対して行う特定の業務に係る企画、緊急時の管理、技術的助言、日々の経営に関する支援等は、株主としての地位を有する者が専ら株主として自らのために行うものとは認められないことから、株主活動には該当しない。
また、親会社が子会社等に対する投資の保全を目的として行う活動で、かつ、当該子会社等にとって経済的又は商業的価値を有するものは役務の提供に該当する。
(4)(1)から(3)までの取扱いは、国外関連者が法人に対して行う活動について準用する。
(5)法人が国外関連者に対し支払うべき役務の提供に係る対価の額の適否の検討に際して、当該法人に対し、当該国外関連者から受けた役務の内容等が記載された書類等の提示又は提出を求める。この場合において、当該役務の提供に係る実態等が確認できないときには、措置法第66条の4第3項等の規定の適用について検討することに留意する。
 
移転価格税制の適用に当たっての参考事例集
事例 23の解説から引用
1 法人が国外関連者に対して経営•財務•業務•事務管理上の活動を行う場合において、当該活動が役務の提供に該当し、その対価を授受すべきものであるかどうかは、当該活動が当該国外関連者にとって経済的又は商業的価値を有するものかどうかにより判断する必要がある。具体的には、当該国外関連者と同様の状況にある非関連者が他の非関連者からこれと同じ活動を受けた場合に対価を支払うかどうか、又は当該法人が当該活動を行わなかったとした場合に国外関連者自らがこれと同じ活動を行う必要があると認められるかどうかにより判断することとなる(事務運営指針2-9 (1))。
また、法人が、国外関連者の要請に応じて随時役務の提供を行い得るよう人員や設備等を利用可能な状態に定常的に維持している場合には、かかる状態を維持していること自体が役務の提供に該当する(事務運営指針2-9 (2))。
法人が国外関連者に対し、非関連者が当該国外関連者に行う役務の提供又は当該国外関連者が自らのために行う活動と重複する活動を行う場合には、当該重複する活動は原則として役務の提供に該当しない。ただし、その重複が一時的であるとき、又は当該重複する活動が事業判断の誤りに係るリスクを減少させるため手続上重複して行われるチェック等であると認められるときには、当該重複する活動は役務の提供に該当することとなる(事務運営指針2-9 (3)イ)。