資料調査各課は当局の職員に料調と呼ばれており、料調一課で調査する法人は税務署では調査しきれない大規模法人(資本金の額は1億円に満たないが、売上の規模が通常100億円超で各地に支店や営業所があり、また海外に工場を持っているような大法人)です。しかも、その中から特に調査が困難と認められるような法人を選んで(事案の選定)調査をおこなっています。事案の選定は、その時々の経済情勢を見ながら好況業種や不正計算が内在していると思われる業種などに着目して、申告書や決算書を分析しながらベテランの実査官とその上司である主査がおこないます。事案が選定されると調査に着手することになりますが、その前に準備調査をします。大規模法人ですから、漫然と全体を調査するのではなく、申告書の内容を徹底的に読み込んで分析して要調査項目を抽出します。例えば、申告書に記されている取引先法人の申告状況を事前に調査するなど、その法人だけでなく取引先法人の事情も前もって調べます。準備調査を徹底的におこなって現実の調査をイメージし、考えられる様々な状況をシミュレ一ションします。このあと、その事案の担当実査官は全員を集めて準備調査の検討会をおこないます。他の実査員からさまざまな質問が出されて準備調査の不備を指摘され、やがて準備調査が完成し、あとは着手してイメージどおりに実施していきます。こうした料調の実査官が調査に入ると到底かなわないので、普段から適正申告に心がけましょう。
実際に調査に着手するときは原則的に無予告でおこなわれ、だいたい30人体制で法人の本社、支店、工場、営業所、代表者宅、場合によっては取引銀行にも同時に着手します。規模にもよりますが、本社にはだいたい7、 8人から10人程の実査官が朝9時前には集合しており、着手予定の支店工場などにも数名程度実査官が張りつけられています。事案の担当主査が各地に分散している実査官と連絡を取り合いながら、9時になると各地同時に調査に着手します。代表者の自宅にも臨場するのは、代表者が自宅にいる可能性があるためであり、代表者になるべく早く面接して調査に着手する旨を通知し、調査を実施することの了解・承諾を取りつけるためです(自宅の中を家捜するためではない)。こうして着手すると、各現場では実査官が法人の経理部や営業部などのそれぞれの責任者から、日々の業務内容の聞き取り調査(概況の聞き取り調査)を実施します。概況聞き取りが一通り終わると、次に事務室内の現物確認調査が代表者の了解のもとにおこなわれます(キャビネッ卜に保管されている日々の業務関係資料、金庫内の現金や重要書類の検査、机の中の書類、印鑑などの検査)。現在ではあまりないですが、現物確認中に書類を持って逃げようとする社員がいたり、代表者がいきなり書類を破ることもありました。こういったことがあると、重要書類を一発で把握することができるので、調査する側にとっては好都合でした。
こうして集められた書類関係はその場で見ることはなく、すべて会議室などの別室に運ばれて実査官が読み込みをします(物読み)。この物読みで、経理操作を示したメモや表向きの経理書類を作成する前の真実を記した書類などが把握されることがあり、こうして不正計算の端緒が把握されて、やがて全体が明らかとなり修正申告をすることとなります。メモ書きや真実を記した書類を破棄しても、必ず会社内に社員の誰かが自分の保身と責任逃れのためにそのような不正書類を保管しているものであり、そこからばれていきます。調査期間は現物確認調査や物読みに1週間程度かけ、その次の週は人数を縮小して問題点をまとめあげて修正するべき項目を指摘して説明し、代表者の理解と納得を得られた後に修正申告書を提出するよう指導します。しかし、ここで当局から修正申告が必要な項目を見せられ、考えても見なかったような問題点を指摘されることもあります(たな卸し資産の計上について社長の指示通りに社員が行なっていない場合や、たな卸し資産の計上を適当にやっていないか、回収可能な売掛金を貸倒処理していないか、営業部が当期の売り上げの予算を達成してしたので当期に計上するべき売り上げを故意に翌期に繰り延べたりしていないか等)。税金を誤魔化そうなどという気持ちが社長にはなくても社内で不適切な経理処理がされ、税務調査で会社の経理処理の不備が指摘されることはよくあります。税務調査はある意味で社内の経理や業務を見直す絶好の機会であり、調査を社内見直しのいい機会として前向きに捉えましょう。