貸与金型の減価償却費の計上について説明してください

例えば、船舶や自動車のダイカスト模型の卸売業で売上規模が約15憶円、所得金額は毎期数千万円から1億円程度計上している同族会社であるとします。営業会議で新製品の企画が通ると、台湾のメーカーに製造を委託して全品引取り、日本で販売します。問題となっているのは、前回の税務調査で指導を受けたとおりに実施していた当社所有の金型の償却費約50,000 千円について、損金算入時期のみならず、減価償却費を計上することそのものが間違っている、金型の減価償却費は原価であるから販売されていない商品に対応する額は仕掛品とするべきでないかということです。
会社の主張としては、台湾で7、 8か月かけて完成された精密金型を台湾の製造会社にそのまま貸与しているため、本体模型の製造が開始されるのは企画から金型製造を経て、約1年後ということになります。その模型を日本に全量輸入して日本で販売しているのは、金型を当社の所有資産として管理するのは台湾での無断製造を防止するためです。事前に顧客から注文を受け付け、注文数量のみ製造してすべて売り切り、在庫を持つことはありません。追加の注文もとらずに製品の希少価値性を作出し、高付加価値商品としているためです。この会社には以前にも税務調査が入っているようですが、それまで新製品の試作品製造に着手したときから金型の減価償却を開始していたようです。ところが試作から量産体制に入って模型の販売をするのは試作品製造から約1年後になってしまい、製造から販売に至る期間が長いため、貸与金型の償却費を計上する時期と製品の売上の計上時期の間に決算期がきてしまい、費用を計上する期と売上を計上する期がどうしてもずれてしまいます。課税当局からそこの部分、つまり、『減価償却することについて問題はないが、製品の売上計上時期に比べて償却開始時期が早すぎます』と指導を受けました。売上計上と費用の計上が対応していないとのことです。そこで、特別仕様でない通常の船舶や自動車のダイカスト模型を作る場合、金型の減価償却の開始から製品の販売開始までの期間は平均で9か月なので、製品の販売開始予定日の9か月前から金型の償却を開始するよう当局の指導どおり改善しました。それからは償却計算をきちんとしています
しかし、金型の減価償却費はその製品が完成し売上を計上するまでは費用に計上するのではなくて、棚卸資産として計上するべきではない、つまり、期中の減価償却費の計上は認められないのではないでしょうか。この会社は船舶、自動車模型の製造を企画し、その製造を他社に委託していますが、この事業形態は製造業に当たります。製造業と判断するのは製品の製造そのものを企画しているからです。台湾のメーカーはいわれたとおりの作業をしているだけであり、企画して他者に製造を委託しているということがそもそも製造業に当たります。従って、この会社は製造業である以上、金型の償却費は直接原価となるので販売前の模型の金型の減価償却費は全額棚卸資産とするべきでしょう。前回調査の指摘は誤りであり、正しい処理に直さなければなりません。9か月償却の損金算入を認めたのは前回調査官の誤りと言えます。また、法人税法22条を見ると、第3項に損金とは何かが書いてあります。
3略……損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、次に掲げる額とする。
一 当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額
二 前号に掲げるもののほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用(略)の額
損金とは、原価か・販売費・一般管理費の3つしかなく、模型の製造に使う金型の減価償却費は販売費でも一般管理費でもないため原価です。製造原価であれば、その製品が完成するまでは一時の費用とするのではなく、棚卸資産とせざるを得ないでしょう。しかもこの金型を使ってできる製品が売り出されるのは翌期以降であり、減価償却費の計上を認めたら費用収益が対応しないことになります。従って、金型の償却費を棚卸資産として計上するべきです。
ですが、次のように考えることもできます。この金型は当社所有で台湾製造会社に貸与しているものであり、貸与資産の減価償却費を計上しているという認識でいます。金型を台湾製造会社に貸与し、製造会社が製造に着手した時点を持って貸与金型を事衆の用に供した時期と判断し、その時点から償却を開始しているのは何の問題もありません。この会社は前回調査時に課税当局から指導を受けたとおりに減価償却費の計上をしており、前回調査時と業態に変化はまったくありません。事業内容の通り、金型はこの会社が資金を出して台湾製造会社に製作させ、その金型をそのまま製造会社に無償貸与しているものであり、貸与された製造会社がその金型を使用して製品を製造し、当社が全量仕入れているという業務形態です。また、税法上、自己の製造にかかる棚卸資産であれば償却費も当然棚卸資産の取得価額となりますが、製造は台湾の第三者会社であってこの会社では製造をしていません。製造途中の仕掛品は台湾にあるため、償却費を配賦しようにも、そもそも、もととなる仕掛品は台湾会社の所有品です。完成して引き取るまではこの会社のものとはなっていません。この業態は、商社が新製品を企画し、メーカーに製造させ、独占的に仕入れ販売をしているという状況となんら変わりはないです。商社が金型等をメーカーに貸与して製造させた場合、その償却費を商社が棚卸資産としては計上しないため問題もありません。
ではどのように解決すればよいのか。まず、法人税法22条は、法人税を考えるに当たって基本となる条文であり、所得計算の基本概念である益金、損金の意味内容を規定しています。よって、このような基本条文を自分の意図する方向に曲解しようとすることは許されないことです。また、製造を他社に委託する業態を製造問屋と言います。この製造問屋は日本産業分類によれば、製造業ではなく卸売業に当たります。さらに、相手の主張を論破するには、自分の議論が正しいと主張するばかりではなく、相手の主張に矛盾があるという点を指摘しなければなりません。例えば誘導尋問になっている場合(尋問者の欲する供述を暗示するような尋問で、質問の中に答えがある、つまり、イエス、ノーで答えられる質問のこと)、誘導尋問は必ずしも無効であるということではありませんが原則的に許されません。質問の中に、最初から意図する答えがあってその答えにイエス、ノーで落とし込んでいくわけですから、正しい判断、事実関係の解明にはなりません。裁判では裁判長は誘導尋問を制限することができることとされています。問題となっている事柄の答えについて、あらかじめ選択肢をいくつか用意して一つずつ消去していき、最後に自分たちの意図する選択肢に追い込んでいく追い込み漁的なワザには十分注意しましょう。その調査官も無意識で信じ込んでやっているところが怖いです。