タックスヘイブン税制について教えてください

F社は、プラスチックや合成ゴムなどの化学製品を製造しているメーカーで、香港に100パ一セント子会社があります。工場を中国の広州地区に置き、原材料を無償供与して製品を香港子会社が全量購入しています。香港子会社は製品を日本本社に輸出するほかアジア各国に販売、利益を計上しているが日本本社には配当していません。よって、毎期多額の利益が子会社に留保されています。問題になっているのは留保された利益について、日本本社の利益に合算して申告する必要があるのではないかということです。
事業についてですが、ここ数年、インド、中国をはじめ、アジア各国からひっきりなしに注文をいただいている状況であり、こうした需要に対応するためタイやベトナム、台湾、中国に製造工場を作りました。さらに香港に100%子会社を設立したのもさまざまなニーズに迅速に対応するための統括拠点です。各工場には日本本社から原材料を無償で供給しており、その材料を使ってプラスチックなどの製造をしていきます。こうしてできあがった製品は各工場が販売も担当していますが、中国工場で製造した分に関してだけは香港子会社が全量買い上げています。その半分程度は日本本社に輸出していますが、アジア各国にも販売網を広げているところです。香港子会社は毎期多額の利益を上げられるようになりましたが、この利益は現地での資金需要に対応するためにすべて香港国内の銀行に預金しています。
ところが、香港は日本に比べて税金の負担が著しく低い、いわゆる軽課税国です。軽課税国に子会社を置いて事業を行なっている場合、その子会社の利益のうち配当されずに保留されたお金は、日本の親会社の収益とみなして益金の額に算入することとされています。これがタックスヘイブン税制です。申告書には香港子会社の利益を日本本社に合算課税するタックスヘイブン税制の検討をした形跡が見られないようです(添付されているはずの別表がない)。この税制に基づくと、香港子会社の毎期の留保利益(日本に配当されずに香港に留められている利益のこと)の額を日本親法人に合算して申告する必要があるわけです。例外でタックスへイブン税制の適用が除外されるケースもありますが、次の4つの基準をすべて満たした場合のみです。
・事業基準 主たる事業が株や債権の保有でないこと。工業所有権などの権利の保有や船舶•航空機の貸付業でないこと
・実体基準 本店所在地国に主たる事業に必要な事務所、工場、店舗等を有すること。会社としての実体がともなっていること
・管理支配基準 本店所在地国において主たる事業の管理、支配および運営を自ら行なっていること
・非関連者基準及び所在地国基準
イ 卸売業や銀行業などを限定列挙の対象業種のいずれかの事業を主として、関連者(50%出資会社など)以外の者と行なっていること
ロ 所在地国基準 イの対象業種以外の業種、たとえば、製造業などを主として本)お所在地国で行なっていること
これに対して、次のように考えることもできます。タックスへイブン税制とは、もともと日本で実施してもいい事業をあえて軽課税国で実施することにより、日本との税率の差を利用して租税回避することを防止するための制度です。香港に工場を置いていないのは、香港では地価が高く工場用地に適した立地もないためです。地価、人件費の安いところを求めたところ、結果的に中国の広州に建設することとなったわけです。また、法人を設立しないで単なる工場にしたかったのですが、中国の法律上、別会社にする必要があったため中国現地法人を設立せざるを得なかったものです。しかも、中国工場での生産にかかわるすべての意思決定を香港子会社で行なっていますし、製品企画、生産企画、生産技術供与、原材料の無償供与、製品の全量引取りなどすべてにわたって香港子会社が管理しています。このような理由から香港子会社の業態は製造業であり、製造場所が中国にあるというだけで、上記の非関連者規準及び所在地国基準のロを含めて4つの基準をすべて満たしているのではないでしょうか。
しかし、製造業において最も重要な行為はまさに製造するという行為そのものであり、香港子会社は製品の製造をしていないため、製造は中国子会社が行なっているといわざるを得ません。確かに中国側の制策的な事情がありますが、現実に実存するのは中国法人としての工場です。したがって、所在地国基準には該当しないのではないでしょうか。また、香港子会社が採用している業態は生産委託方式です。この生産方式は製造業ではなく、製造問屋であると言われています。日本産業分類によれば製造問屋は製造業ではなく、卸売業に分類されます。また、卸売業がタックスへイブン税制の適用を受けないためには、上記のイの非関連者基準に該当するか検討します(仕入れ、売上などの取引の割合が非関連者と50%超あるか)。売上、仕入れ取引を過去5年にわたり調査すると、結果的に非関連者との取引の割合が50%未満の事業年度がいくつかあったので、結果的にそれらの事業年度について修正申告がされました。
このように、軽課税国に子会社がある場合は、特定外国子会社に当たるかどうかの確認と、タックスヘイブン税制が適用されるかどうかの検討を十分に行うことが必要です。この検討は法人税申告書に添付することとされている別表に記載しておこないます。なお、この所在地基準にかかわるタックスヘイブン課税については、課税を受けた数社の企業が国税不服審判所や裁判で現在争っている事例があります。タックスヘイブン税制は平成22年税制改正でいくつかの改正が加えられているので以下を参照してください(詳細は財務省ホームページや経済産業省ホームページで)。
平成22年税制改正の概要
1. トリガー税率の引き下げ
トリガー税率(合算課税の適用対象となるか否かを判定するための基準税率)を25%以下から20%以下に引き下げた。
2. 適用除外基準の見直し
企業実体をともなっていると認められる事業統括会社の所得について、合算課税の対象外となるよう措置した。
3. 資産性所得に対する課税等
資産運用的な所得として外国子会社が受ける株式•債権の運用による所得使用料について親会社の所得に合算して課税することとした。