事業承継税制の背景には、どのようなことがあったのですか?

自社株式にかかる相続税の負担は、オーナー一族の個人的問題ではなく、会社存続に関わる問題で
あるといえます。それゆえ、平成21年度税制改正により事業承継税制の一環として相続税に係る自社株式の納税猶予制度が創設される等、次のように法律が整備されました。

1.事業承継に伴う問題
 “大株主=経営者”である中堅・中小企業については、経営者の相続によって次のような問題が発
生し、事業の継続や発展に与える影響が大きいといわれます。

 (1)会社による自己株式の買取り
  相続税の納税資金の確保を目的として、後継者が所有する自社株式を会社に買取らせることがあります。しかし、そうすることによって会社の内部留保が流出し、設備投資資金・運転資金が逼迫してしまう可能性も否定できません。

 (2)不動産等の事業用資産の売却
  個人資産である不動産等を会社に貸付けている経営者が多く見られます。相続税の納税資金の確保を目的として後継者が相続した不動産等を第三者に売却することで、会社の事業継続自体が危うくなってしまう場合があります。

 (3)事前の相続対策
  会社の業績が伸びれば株価も上昇して、相続税の負担が大きくなります。ゆえに、事業活動を抑制することにより株価を下げるといった不合理な企業行動が起こりかねません。
  相続税の納税資金の確保を目的として、高額な役員報酬や退職金を支給することも考えられるのですが、それは事業活動に影響があるだけでなく、他の株主や従業員の理解を得られないことがあります。

 (4)経営者の個人保証・担保提供
  経営者が会社の借入に対する個人保証を行っている場合や、会社に運転資金を貸し付けている場合が、よくあります。そのため、たとえ相続税に見合う預貯金を持っているとしても、現在や将来の会社経営を考えて一定の預貯金を確保しておくことによって、相続税の納税が困難になっている面もあるといえます。

2.事業承継に関する法整備
 このような事業承継に伴う問題に対応する目的で、次のような法律が整備されました。

 (1)中小企業経営承継円滑化法の創設
  中小企業経営承継円滑化法(中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律)が創設され(平成20年10月1日施行)、後継者による経営権確保を支援するため、遺留分について特別の規定が定められました。

 (2)非上場株式にかかる相続税・贈与税の納税猶予制度の創設
事業承継税制の一環として、非上場株式にかかる相続税・贈与税の納税猶予制度が創設され(平成21年4月1日施行)、後継者が取得した自社株にかかる相続税・贈与税の負担が軽減されることとなりました。