Q.医療法人のリスクマネジメントとしての保険加入について教えてください。

A.保険加入は、医療法人のリスクマネジメントの一環として重要です。また、一定の要件を満たす生
命保険に加入すれば、支払った保険料を税務上の損金に計上することができ、節税ができます。保険
商品の活用は、医療法人設立の大きなメリットの一つといえますが、数多くのタイプの保険商品が存
在しますので、顧問税理士に確認の上で、保険への加入を決めるといいでしょう。

1.生命保険への加入目的
 医療法人が生命保険に加入する目的は、医業保障資金の準備、役員退職金の準備、従業員の福利厚生の三つであるといえます。
 (1)医業保障資金の準備
  万一、経営者である理事長が死去した場合、医業を続けていくための資金(借入金の返済資金等)を準備することができます。
 具体的には、医療法人が病院の建設や医療機器の購入等を目的に金融機関から資金を借り入れている場合、理事長が死去すれば返済を求められることになります。そこで、借入金に相当する額の生命保険に加入して、支払いのための財源とします。
 (2)役員退職金の準備
  医療法人を設立すれば、院長やその配偶者は退職する際に退職慰労金や特別功労金を受領できます。また、死亡退職であれば、医療法人から本人又は遺族が死亡退職慰労金、特別功労金、弔慰金等を受領できます。
  上記のような勇退や死亡のいずれの退職にも、生命保険で対応することができます。
  なお、一定の要件を満たす生命保険に加入すれば、医療法人が支払った保険料等の全額を損金に算入することが可能です。
 (3)従業員の福利厚生
  従業員の退職金制度、弔慰金制度、見舞金制度を充実させるためのものとして、養老保険等の福利厚生保険があります。このような保険は、福利厚生制度の中心、人材確保の手段となります。

2.損害保険への加入目的
 医療法人が損害保険に加入する目的は、財産損害、賠償損害、人的損害のリスクに備えることであ
るといえます。
 (1)財産損害のリスクへの備え
  建物や設備の火災等に備える保険として、火災保険があります。
 (2)賠償損害のリスクへの備え
  施設、設備、機器等の不備や、業務活動上のミスによって、第三者が傷害を負った場合等(建物の火災による患者の死去等)に備える保険として、施設賠償責任保険があります。
  そして、医療上の過失により患者の身体や財物に損害が生じた場合に備える保険として、医師賠償責任保険があります。医師や歯科医師を対象とする一般の医師賠償責任保険のほかに、日本医師会会員を対象とする日本医師会の医師賠償責任保険が存在します。
  また、給食等の支給による食中毒の発生等に備える保険として、生産物賠償責任保険があります。
  さらに、病院が所有する車で患者を搬送する際の交通事故等に備える保険として、自動車保険があります。
 (3)人的損害のリスクへの備え
  看護師が誤って注射針を自らに刺してしまった場合等に備える保険として、労働災害保険があります。