A.平成20年5月に成立した「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」は、雇用を支え、日本経済の基盤といえる中小企業につき、事業の円滑な継続を支援することを目的とするものであり、法律の骨子は次のようになっています。
1.相続税の課税についての措置
経営承継が事業活動の継続に差し支えることを防ぐため、非上場株式等に係る相続税の納税猶予制度が創設されました。
2.金融支援
代表者の死去等による経営の承継が、事業活動の継続に差し支えていると判断される中小業者は、経済産業大臣の認定を受ければ、次の支援措置を受けることが可能となりました。
・株式会社日本政策金融公庫や沖縄振興開発金融公庫より、代表者個人が融資を受けること
・中小企業信用保険法に定められている普通保険等を別枠化すること(信用保証協会の債務保証の別枠化により、その債務保証を受けることにより金融機関からの資金調達が容易になります)
3.遺留分に関する民法の特例
一定の条件に該当する中小企業者の後継者が、先代経営者の遺留分権利者全てと合意し、経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可を受ければ、遺留分に関する民法の特例(除外合意、固定合意)の適用を受けることができるという制度が創設されました。
(1)除外合意
後継者が、遺留分権利者全てと合意し、経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可を受けることで、先代経営者より後継者への生前贈与が行われた自社株式その他一定の財産につき、遺留分算定の基礎財産より除くことができるようになりました。
除外合意によって、事業継続に欠かせない自社株式等に係る遺留分減殺請求を未然に防ぐことができるほか、後継者単独で家庭裁判所に申し立てることから、従来の遺留分放棄制度と比較して非後継者の手続が簡素化されます。
(2)固定合意
生前贈与の後に後継者の努力によって株式価値が上がった場合にも、遺留分の算定に当たっては相続開始時点における上昇後の評価で算出されてしまいます。
それゆえ、後継者が、遺留分権利者全てと合意し、経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可を受けることで、遺留分の算定に当たって、生前贈与株式の価額をその合意時の評価額で固定しておけるようになりました。
後継者が株式価値の上昇分を保持できる制度が創設されたことで、経営意欲の阻害要因を排除することができました。