後継者の会社への収益物件の移転に伴う税負担について教えてください。

100%グループ内の後継者の会社に高収益物件を売却する際に発生する譲渡益への課税は、繰り延べられます。なお、その収益物件をグループ外へ移転したとき、又はさらに他のグループ内法人へ移転したとき、当初移転を行った法人において譲渡益を計上します。

1.グループ法人税制の概要
 (1)制定の趣旨
  関連する複数の会社を一つのグループとして見たとき、複数の会社でグループ経営を行っている会社と、一つの会社内で事業部をいくつか設置している会社を比較して、経済的な実態に差異がないとすれば、課税関係が異なるのは、課税の公平性・中立性が確保されているとはいえないでしょう。
  そこで、グループ内取引やグループ法人の位置付けに関して、グループ経営の実態を反映させるために、平成22年度税制改正において、グループ法人税制(グループ法人単体課税制度)が創設されました。
近年では、大企業のほか中小企業でも、グループ経営が積極的に行われています。新規事業の展開・取引先の要請への対応・事業承継の円滑化・事業責任明確化のための事業部門の分社化等の事情により、100%子会社を設立・取得するケースが多くなっている状況です。

 (2)グループ法人税制
  グループ法人税制で、一定の規定が設けられているのは、次のようなグループ内における法人間の取引についてです。
 ・100%グループ内の法人間の資産の譲渡等
 ・100%グループ内の法人間の寄附
 ・100%グループ内の法人からの受取配当
 ・100%グループ内の法人からの現物配当
 ・100%グループ内の法人の株式の発行法人への譲渡等

2.100%グループ内の法人とは
 グループ法人税制の適用の対象となる「100%グループ内の法人」とは、次のような関係のことを
いいます。
・親会社であるA社が100%出資してB法人を設立した場合、A社とB社は100%グループ内法人といえます。
・A社が100%出資してB社及びC社を設立した場合、A社、B社、C社は100%グループ内法人といえます。
・A社が100%出資してB法人を設立し、その後A社とB社が例えば50%ずつ出資してC社を設立した場合、A社、B社、C社は100%グループ内法人といえます。
・個人A(又は外国法人)がそれぞれ100%出資してB社とC社を設立した場合、B社とC社は100%グループ内法人といえます。
・一定の同族関係者(6親等内血族・配偶者・3親等内姻族等)である個人Aと個人Bがそれぞれ出資して(例えば個人AがC社に70%、D社に60%出資し、個人BがC社に30%、D社に40%出資して)C社、D社を設立した場合、個人A、個人BがC社、D社に合計100%の出資をしていることから、C社とD社が100%グループ内法人といえます。
 
3.グループ内法人間における資産の譲渡取引
 グループ法人税制の適用前は、グループ内の譲渡取引について、時価と簿価の差額である譲渡益が課税対象となっていました。ゆえに、含み益がある資産を保有しているケースでは、税負担により円滑な経営資源の再分配が妨げられる一方、含み損がある資産を保有しているケースでは、税負担の調整を行うことができました。
 グループ法人税制の適用開始後には、100%グループ内の法人間で一定の資産を移転したことで発生する譲渡損益を、その時点では計上しないこととされ、その資産をグループ外へ移転した際、又はさらに他のグループ内法人へ移転した際、当初移転を行った法人において計上することとされています。
なお、譲渡損益調整資産、すなわち譲渡損益を繰り延べる対象となる資産は、固定資産(減価償却資産・土地等)・棚卸資産である土地等・有価証券(売買目的有価証券を除きます)・金銭債権・繰延資産のうち、帳簿価額が1,000万円以上のものとなっています(土地等以外の棚卸資産は譲渡損益調整資産から除外されます)。

4.後継者の会社への収益物件の移転
 A社で新たな資金需要が発生したことにより、高収益物件(時価10億円、簿価1億円)を時価10億円で後継者のB社に売却する(A社とB社は、100%グループ内の会社です)ケースでは、A社で発生する譲渡益9億円(時価10億円-簿価1億円)への課税は繰り延べられます。
高収益物件をA社からB社へ移転することで、A社については、将来の所得金額が減少し、純資産の増加も緩やかになる一方、B社については、所得金額が増加し、純資産も増加していくと考えられます。したがって、将来のA社の株価は下落し、B社の株価が上昇することとなります。